教育分野で進むブロックチェーン活用。プロセス評価で学習歴社会を実現する

2009年にブロックチェーンが誕生して以降、様々な分野でブロックチェーンが活用されてきました。ブロックチェーンは暗号資産(仮想通貨)のための技術であると思われがちですが、既に金融分野に限らず幅広い領域での導入事例が登場しています。

ブロックチェーンは、プロセスを正しく評価することができる仕組みです。なぜなら、ブロックチェーンには特定の管理者が存在しないため、プロセスが改ざんされる最大の要因を排除することができているからです。

そんなプロセス評価の仕組みが最も活きる分野の一つが「教育」ではないでしょうか。本記事では、教育分野で進むブロックチェーン活用の事例やその具体的な方法、また未来の教育の姿について詳しく解説していきます。

教育分野におけるブロックチェーン活用

一口に教育分野といっても幅広いですが、最もブロックチェーンの導入が進んでいるのが、「学位や証明書」の管理です。

ブロックチェーンは、記録されたデータの改ざんを防ぐことに長けた仕組みです。そのため、「改ざんされると困るデータ」の管理には非常に適しています。従って、学位や証明書はブロックチェーンで管理するデータとしてうってつけだといえるでしょう。ブロックチェーンによって、学歴詐称などの社会課題を無くすことができるかもしれません。

一方で、記録後に編集や削除が必要になるデータに関しては、ブロックチェーンで管理すべきではありません。これには例えば、個人情報などが該当します。(こっそりシュレッダーにかける必要があるデータも、ブロックチェーンで管理してはいけませんね…)

学位や証明書をブロックチェーンで管理する取り組みは、海外で既に多数登場しています。日本でも経済産業省が2019年に、株式会社リクルートおよび株式会社techtecとの合同調査事業として、学位・履修履歴、研究データの不正防止にブロックチェーンを活用できないか、という趣旨の取り組みを行いました。本事業では、海外で既に行われている取り組みをまとめた調査レポートが公表されています。

下図は、調査レポートで取り上げられている海外の事例をマッピングしたものです。欧米を中心に、アジアでも既に複数の取り組みが行われていることがわかります。

上記マッピング図の中から、いくつかの取り組みについて選定し、詳細の解説を記載した表が以下になります。いずれも、学位や証明書をブロックチェーンに記録する設計となっていることが共通点としてあげられるでしょう。

global usecase

調査事業を通して明らかになった発見としては、先行事例のいずれも、アウトプットとしての学位や証明書”のみ”をブロックチェーンに記録する形態をとっていた点です。先述の通りブロックチェーンは、記録されたデータの改ざんを防止することに長けた仕組みといえます。

しかしながら、万が一記録される前のデータに誤りがあった場合、ブロックチェーンにはどうすることもできません。つまり、ブロックチェーン云々の前に記録するデータそのものの信憑性が重要になるということです。

これを「オラクル問題」といい、教育分野に限らずブロックチェーンが抱える古くからの課題の一つとして、解決への議論が続いています。

オラクル問題への解決策

オラクル問題を解決するには、ブロックチェーンに記録するデータの生成プロセスが重要になります。例えば学位や証明書の生成プロセスとしては、そこに到るまでの「学習履歴」が該当するでしょう。

ここでは、日本のeラーニングサービス「PoL(ポル)」による取り組みを見ていきます。PoLでは、教育分野におけるブロックチェーン活用として、学習者の学習履歴を全てブロックチェーンで管理する取り組みを行なっています。具体的にはこの時、学習者の学習行動に応じて独自トークンである「PoLトークン」を発行しています。

トークンとは、ブロックチェーンを使って発行されるデジタル資産のことです。学習履歴すなわち学習行動に応じてトークンを発行することにより、学習履歴のデジタル化とブロックチェーンへの記録を同時に行なっているのです。

アウトプットとしては、学習履歴に紐づいたトークンをブロックチェーンに記録し、記録されたデータ(トークン)を集計することで証明書を発行しています。そのため、証明書の内容に誤りが発生する余地がなく、オラクル問題を解決することができるというわけです。

また、後述のようにPoLではこのトークンを、証明書発行以外の場面でも活用できると考えています。

トークンによるプロセス評価

学歴や社会人の資格のように、年齢を重ねるほど、我々は定量化されたアウトプットの指標で評価される場面が多くなります。しかしながら幼稚園や小学校などの教育現場では、定量化された指標のみでの評価には限界があるといえます。むしろ、大事なことはテストの点数に表れないことの方が多いのではないでしょうか。

例えば、掃除を一生懸命やる生徒や地域のボランティア活動に積極的に参加する生徒、元気に挨拶ができる生徒など、こういった特徴も立派な能力であり、もっと評価されて良い一面なはずです。

そこで期待されるのが、ブロックチェーンによるプロセス評価です。これは、トークンによって実現可能だと考えられます。具体的には、学習以外の行動に対してトークンを発行する方法があげられるでしょう。例えば、掃除をすると発行されるトークンや、遅刻せずに授業に出席すると発行されるトークンなどが考えられます。掃除や早起きが苦手な生徒の習慣を変える、副次的な効果も期待できるかもしれません。

別の例として、先述のPoLでは学習者の学習履歴に応じてPoLトークンを発行しますが、アウトプットとしての証明書を発行するだけでなく、学習履歴をそのままスコアとして活用する取り組みも進めています。これを「ラーニングスコア」と呼び、昨今話題の信用スコアと並ぶ新たな指標としての応用が期待されています。

信用スコアの課題として、先天的な要素による社会格差の拡大があげられます。また、一度でも過ちを犯してしまうと、信用スコアの世界では取り返すことが非常に困難です。

ラーニングスコアは、その人の努力の賜物であり、いつでも自分次第で蓄積させることができます。ラーニングスコアに従って、融資額やクレジットカードの限度額を設定することもできるのではないでしょうか。

学歴社会から学習歴社会へ

教育分野におけるブロックチェーン活用として、学位・証明書の管理やオラクル問題、プロセス評価の仕組みについて解説してきました。特に日本で根強く残っている「学歴社会」は、本当に正しい評価軸なのでしょうか。

ラーニングスコアのような概念が社会に浸透することで、学歴社会から「学習歴社会」へのシフトを促すことができます。ブロックチェーンの実現するプロセス評価の仕組みは、我々が想像するよりも遥かに大きく社会を変革する可能性を秘めているのです。

教育×ブロックチェーンの他にも、金融×ブロックチェーンの領域は市場の盛り上がりが活発になっています。この分野を分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)と呼びますが、DeFiの世界では既存産業の状態から一切の影響を受けません。つまり、人種や国籍に関わらずいつでも誰でも金融サービスにアクセスすることができるのです。

ラーニングスコアはそんなDeFiとも相性が良く、また教育や金融以外の領域でも同様の「分散志向」を持った新たな動きが出てきています。このトレンドは日に日に大きなムーブメントになっており、ブロックチェーンによる変革は間違いのない未来だといえるのではないでしょうか。

日本でもこの波に乗り遅れないよう、継続した取り組みが期待されます。

 

実証実験や事業の立ち上げパートナーを募集しています

株式会社techtecでは、教育分野でのブロックチェーン活用に関する取り組みに力を入れています。これまでに、経済産業省との調査事業や小中学校の先生方とのディスカッションを継続的に行なってきました。ブロックチェーンはあくまで手段に過ぎません。教育現場からの貴重な生のご意見やご提案があってこそ、課題を解決することができると考えています。

教育×ブロックチェーンで未来の社会を変革していくために、共に活動できる事業者様や教育関係者様を必要としています。実証実験や事業の立ち上げ、勉強会の開催など、どんな小さなことでもまずは取り組んでみる姿勢を大切にし、教育現場とブロックチェーン開発現場の目線を合わせることが重要だと思います。

少しでも何かやってみたいなと感じていただいた方は、ぜひ下記よりご連絡ください。共に未来の社会を変えていきましょう!